2013/05/09

「ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン」ローンチ発表会ー私たちの言葉は未来を作るか?

会場入り口に掲げられていたパネル。
「あなたのコトバが、未来をつくる。」が“掛け声”。

5/7にオープンした「ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン」のローンチ発表会に行ってきた。

左から、ジャパンCEO小野高道氏、ジャパン代表取締役西村陽一氏、
ジャパン編集長松浦茂樹氏、アリアナ・ハフィントン氏、
朝日新聞社代表取締役社長木村伊量氏、
ザ・ハフィントン・ポスト・メディアグループCEOジミー・メイマン氏。
私の身長が足りず、このショットしか撮影できなかった。

THE HUFFINGTON POST」とは、ニュース、ブログ、ソーシャルメディアを組み合わせたニュースサイト。2005年に米国でアリアナ・ハフィントン氏により立ち上げられた。現在では月間4600万人の訪問者を数え、投稿件数は月間800万件を超えるなど、もっとも多くの読者をもち、もっとも参照されるメディアだという。2012年にはピューリッツァー賞も受賞している。

今回、5/7に、その日本語サイト「THE HUFFINGTON POST in association with THE ASAHI SHIMBUN」がオープンした。サイトはブロガーによるブログ記事、ニュース記事、ソーシャルコメントの3つの要素で構成される。

日本版の立ち上げには、まず70名のブロガーに寄稿を依頼した、と資料にはある。ジャーナリストの佐々木俊尚氏、メディア・アクティビストの津田大介氏、起業家の堀江貴文氏など、ネットの世界ではおなじみの著名人たちの名前が揃う。米国版ではブロガー数は3万人以上というから、これからどんどん増えていく、と理解していいのだろう。

編集長の松浦茂樹氏いわく、「団塊ジュニア世代に意見を発信してもらうことがテーマ」。人数が多いにもかかわらず、その声が聞こえてこない、という。その意見を集約していければ、と。

このローンチ発表会については、数多くのメディアが参加していたので、きっとオフィシャルな記事が多く出ることと思う。詳しくはそちらに譲るとして、私は自身の印象的な体験をブログに書き留めておきたい。

挨拶に立ったアリアナさんがアジア初のローンチへの喜び、期待などを語る際、日本からの発信として期待することの中に、well-being、health balanceといった言葉を使って説明したことに(しかも何度も!)少し驚いた。

アリアナ・ハフィントン氏。

これまでも、外国人セレブリティから、日本の良いところについて話を聞くとき、これらの要素が入ってくることが多かったけれど、それは、日本の紋切り型のイメージを語っているだけだと思っていた。

しかし、今や世界を代表すると言ってもいい大メディアグループのプレジデント兼編集長も、そのことを口にするんだ、という驚きがあった。活発な言論以外に、日本に求められていることのひとつ——それはストレスを緩和させ、精神を鎮める方法だなんて。

私は、もはやこの国にはそんなものはないんじゃないか、と、ちょっと思っていたのだ。この発表会の前に彼女は京都に滞在していたという。そこで得た経験も大きかったのかもしれない。

参考:アリアナ・ハフィントンよりご挨拶

また、ハフィントン・ポストにビューを集める施策は何ですか? 魅力的なブロガーなどの書き手?」というプレスからの質問に「私が一番、記事を書いてほしいと思っているのは『普通の人々』です!」と断言していたのが印象的だった。

とはいえ、「普通の人々」がハフィントン・ポストに自分のスペースを持てるようになる道のりは、まだきっと、はるか遠い。まずは、上がった記事にせっせとコメントを書いていくしかなさそうだけど。どうなんだろう?

発表会に続いて懇親会がおこなわれた。ここでアリアナさんをつかまえて、以前から抱いていた疑問「なぜハフィントン・ポストには“女性”というカテゴリがないの?」と聞いてみた。

彼女の答えはこうだった。

「政治であれ、ビジネスであれ、なんであれ、そこに女性がいるのは当たり前でしょう?」

確かに。そうだ。その視点が欠けていた。けっこう、衝撃だった。女性、という存在をひとつの大きな“カテゴリ”として考えている以上、まだまだ私には、成熟した社会をつくり、参加する意識が整っていないのかもしれない。

(2013年5月9日追記・Twitterで「英語版にはありますよ」と教えていただいたのだが、Healthy Livingというカテゴリの中のサブカテゴリで、気がつかなかった。私のアリアナさんへの質問は「米国版にも日本版にも、大カテゴリにWOMANという項目はないの?」というものだったことも追記しておく。ご指摘感謝!)


「でもあなたの言っていることもわかるのよ」とも言ってくれた。それは日本という社会のもつ意識に対する彼女の答えだったのだろうか。

パーティートークは短く、が礼儀だ。そろそろ切り上げようと思った私に「そうそう! そういう質問をしたあなたに、私がの書いたこの本を差し上げるわ」と、アリアナさんは、深いグリーンの大きなハンドバッグから、著書"On Becoming Fearless....in Love, Work and Life"を出して、サインをして、手渡してくれた。

「これを読んで、そして、感想をハフィントン・ポストに書いてね。約束よ」

何か大事なものを手渡された気がした。いや、違うのかもしれない。けれど、私がそう思うのは自由だ。そうでしょう? それこそまさにon becoming Fearlessの(大胆不敵になるための)手始めじゃないか?

よっしゃ、私、今日からちゃんとまた、気合いを入れようと思う出来事だった。アリアナさんの手のひらは柔らかく、あたたかだった。

アリアナ・ハフィントンさんと。

ここまで書いてきて、気になっていることがひとつある。

「あなたのコトバが、未来をつくる。」という掛け声の言わんとすることはわかる。でも、発するべき言葉を持たない人は、世の中に実にたくさんいるのだ。私も含めて。

「言いたいこと」がある人は、発表すればいい。けれど、自分がどういう意見を持つべきかをつねに考えあぐね、迷い、悩み、あるいは放棄し、あるいはまったく関心を持たない“その他大勢”は、発するべき言葉を持つ前の前の段階にもやもやと漂っている。

そういう“その他大勢”の、言葉にならぬ言葉を感知し、すくい上げていくのもメディアの役割ではないか、と私は考えている。長年、女性のライフスタイルをテーマに雑誌を編集してきて、そう思うに至った。

発表会の中で何度も繰り返されていた「豊かな言論空間」という言葉があった。メディアの役割が“コトバを持つひとびと”のためだけのものにならないようにしたい、そのために私には何ができるだろう、と、大胆不敵に考えはじめている。

参考:
ハフポスト日本版、ローンチイベント7日東京で開催

0 件のコメント: